同友ひろしまNews

第5分科会「社員の幸福度アップが会社の業績アップにつながった ~顧客(患者)満足度の高い病院が実践していること」

2016-12 (15)報告者 (一財)操風会 岡山旭東病院 院長  土井 章弘 氏(岡山同友会・常任相談役)

【経営理念】

一、安心して、生命をゆだねられる病院
一、快適な、人間味のある温かい医療と療養環境を備えた病院
一、他の医療機関・福祉施設と共に良い医療を支える病院
一、職員ひとりひとりが幸せで、やりがいのある病院

病院を取り巻く経営環境

 最初に、当院を取り巻く経営環境からお話しします。当院は岡山市中区倉田に所在します。地域的には岡山の県南東部に位置し、岡山市の人口七〇万人に対し、病院は一六四、かつ総合病院は九あり、医師数も全国平均の概ね二割上回っており、この点では「競争が激しい」といってよいでしょう。
 また、特に高齢者を中心に患者さんは増えていくでしょうが、比例して介護施設も増えていきます。この点でも熾烈な競争になる見込みです。
 さらに、二〇一八年には医療・介護同時報酬改定が控えており、国としては、医療機能の分化・連携と地域包括ケアシステム構築を一体的に推進していく方針です。医療と介護の境目はなくなり、治療しながら同時にリハビリも行うということが進んでいくことが考えられます。病院も多機能な役割を担っていくことが求められ、この点では、ビジネスチャンスが広がっているとも考えられます。

岡山旭東病院の沿革

 当院は一九五三年に一般財団法人操風会として父が創立し、一九八三年に一九床の外科病院として弟が始めました。私自身は、大学病院卒業後、勤務医として香川県高松市の病院で働いていました。弟から「一緒にやらないか」という話から、高齢の父への親孝行のつもりで、一九八七年秋に岡山に帰りました。一九八八年に脳神経・運動器の総合専門病院をめざす岡山旭東病院に名称を変更し、この時に院長に就任し、現在四九四名の職員が勤務しています。
 同友会との出会いは、高松での勤務医時代にさかのぼります。「共育講演会」に参加したのをきっかけに、オブザーバーとしていろんな勉強に参加させて頂いていました。当時は経営者ではなかったため入会資格がありませんでした。しかし、岡山に戻り、病院の経営者となり、すぐに事務局の方が来られて入会しました。
 同友会は「人間尊重の経営」を掲げていますが、この考え方は病院こそが大事だと思っています。経営者として何をするべきか、私はすべて同友会で学んできました。
 本日の基調講演で田山さんからお話のあった「労使見解」。これをベースとした経営指針の成文化も、病院経営においては大事なことだと思い、実践しました。一九九二年に経営理念に基づく経営指針書を初めて成文化し、病院内で発表しました。しかし、職員からは「なぜ病院に経営指針がいるのか」「儲け主義ではないか」と、かなり反発がありました。
 つらく落ち込みましたが、これでいくんだという考えがまとまり、私にとっては良かったと思います。いろんな試行錯誤をしながら、現在でも続けています。何よりも、経営指針書があったからこそ、二度の大きな経営危機を乗り越えることができたのです。

2016-12 (18)

全員参加型の病院を目指して

 当院の経営指針書作成の第一歩は、前年度の経営指針の中間発表を受けて、一一月に、すべての職員が経営戦略検討シートを記入することから始まります。このシートは部門ごとに集約され、それぞれの部門長による部門経営方針のたたき台の材料になります。一二月は、各部門長と経営幹部によるブレインストーミングを行ない、経営方針について徹底的に議論しています。
 一月には、次年度経営方針が決定し、中間管理職層までが参加する業務連絡協議会で、次年度単年度方針を発表します。これを受けて各部門と各委員会が部門経営計画の立案に入ります。これが最終的に二月に決定し、集約して経営指針書を作成します。そして、最終的に冊子にしてまとめ、三月に全職員が参加する経営指針発表会を行っています。
 特に大事にしているのは、進捗状況のチェックです。重点項目の定期的な確認と一一月の中間報告会が次年度の経営戦略シートを記入する基本情報となります。こうしてPDCAサイクルを回し、毎年繰り返していくことによって、少しずつ理念に近づいていくのだと思います。

2016-12 (16)

職場環境の改善

 私は、経営理念の四項目のうち「職員ひとりひとりが幸せで、やりがいのある病院」を最も大切にしたいと考えています。医療機関は仕事がハードです。職員ひとりひとりが幸せでやりがいのある病院にするためには、職場環境の改善(ワークライフバランス)が必要です。
 医師の勤務環境の改善については、メディカルクラーク(医師事務作業補助者)を採用しました。診療記録や診断書の作成という医師の仕事のうち、患者診療に直接関わらない業務を担当してもらうためです。これまでは、医師の過重労働で医療の質が低下したり、書類作成に時間がかかり患者さんからのクレームがありました。メディカルクラークの採用で、医師の事務的業務負担は軽減でき、医師が本来の業務に集中できます。書類の早期作成により、患者サービスの向上につながりました。さらに、電子カルテ代行入力により、外来待ち時間の短縮にもつながりました。
 看護師の残業を抑制していくことについては、短期就労看護師や介護福祉士を採用しました。ちなみに看護部の月平均残業時間は、一時間一七分になりました。最終的には残業ゼロをめざしているので、まだまだというところです。ちなみに、ワークライフバランスの取り組みが国にも認められ、今年六月「プラチナくるみんマーク」の認定を受けました。短時間正社員制度を周知し、利用促進により、女性職員の育児休業取得率一〇〇%を評価してもらえたのです。離職率は、医療関係は一〇数%が平均で、当院では一〇%は切っていますが、これも下げていきたいと考えています。

2016-12 (17)

幸せを感じられる職場とは

 当院では、職員満足度向上のため、GHH(Gross Hospital Happiness/病院内総幸福)という指標を二〇一一年より設定して取り組んでいます。ブータンで国の富を図る指標として活用されているGNN(Gross National Happiness/国民総幸福量)に着目しました。病院職員の豊かさを測る指標として「基本的な生活」「感情の豊かさ・精神的幸福」「健康」「教育」など九項目を設け、それぞれ数値化できる指標をつくりました。また全職員に対して「GHHアンケート」を実施しています。例えば、「この病院に就職して、幸せと感じていますか?」について、「はい」の割合は一昨年では八二%まで高まりました。しかし、昨年は「はい」の割合は七二%に下がりました。この年は経営危機を迎えた年でもあり、不安を職員も感じていたのだと思います。
 アンケートでは「やりがいにつながっているものを教えて下さい」との問いに対し、「患者さまからの感謝」(七七%)、「職員からの感謝」(四五%)が多いのが印象的です。人からあてにされることが大事なのだと思います。
 患者さんには、「当院のサービスに満足して頂けたか」というアンケートをとっています。過去五年で年々少しずつ「大変満足」の割合が高まることは励みになります。
 職員一人ひとりが経営理念を追求し、チーム医療を推進し、共に育ちあってこそ、質のよい医療サービスを提供することができ、その結果、職員ひとりひとりが「幸せ」を感じることができるのだと思います。一人ひとりの職員が、学び、考えて、自己を成長させていくことによってのみ「幸せ」が見えてくるのではないかと思います。「病院という職場は、職員一人ひとりの舞台である。そこで、自分の役を最高に演じてください」、私が常々職員に言っている言葉です。理念を追求すれば利潤はついてくるのです。
 石川啄木の詩に「こころよく 我に働く仕事あれ、それを仕遂げて死なむ思う」という言葉があります。このような職場にしていくためには、良いマネジメントと職員同士が共に育ち合う職場環境が必要だと思っています。

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