中小企業を取り巻く情勢と展望~2025年に向けた展望を拓くための情勢分析~
- 開催日時:
- 2024/12/16(月)
- 人数:
- 53名
- 報告者:
- 講師:京都橘大学経済学部 准教授 小山 大介 氏
- 文責者:
- 事務局 保田
講師:京都橘大学経済学部 准教授 小山 大介 氏
■中小企業を取り巻く経済環境の複合化
グローバル化が進行する中、国内外情勢は転換期を迎えています。
複数の課題が同時に発生、国内外への広がりと共に、これまでの考え方を大きく変える「新時代への助走」がすでに始まっています。
経済の主役を担う中小企業は、平和であることで充分な力を発揮できます。ですが、現在、その平和が脅かされる状況にあることに危機を感じています。国内外の事業が複雑化したことで、サプライ・チェーン全体に注意を必要とする時代です。

■中小企業の経営基盤を脅かす変化
1990年代からの30年間、バブル崩壊、アジア通貨危機、ITバブル崩壊、イラク戦争、リーマン・ショック、東日本大震災など、国内外で様々な出来事がありました。その間、主要国の国内関係は比較的安定が保たれてきました。ですが、現在も進行中の情勢変化は、これまで積み上げてきた社会・経済・政治の考え方に変革を促しています。
ポストコロナによるインフレの継続により、一時円安になっていました。来年度の第二次トランプ政権の誕生により、円高へシフトしていくと考えられます。
その他、2022年より始まったロシアのウクライナ侵攻は長期化、「非常戒厳」をきっかけに起きた韓国政局の混乱、米中対立、シリアのアサド政権崩壊、中東情勢の緊迫化など、緊張が高まる一方です。
世界経済情勢が中小企業の経営基盤を直撃する中、平和が脅かされていること、これまでの経済的安定が崩れていることは過去との大きな相違点です。
■グローバル化による世界情勢の変化
1990年代半ば、円高が進んだ日本のGDPは、世界の17パーセントを占めており、世界経済における影響力は大きいものでした。G7各国を合わせると、6割を超える状態が長く続いてきました。現在、世界における日本のGDPが占める割合は、約6パーセントです。大体、1970年代の日本の経済力と同じくらいと考えられます。日本に限らず、先進国は総じてGDP及び、世界への影響力が低下しています。
これまでの経済構造を変えようとする力も強まる中で、「国内」「世界」「環境」の三方面の情勢分析の検討が必要です。私たちを取り巻く社会経済・地域経済は、グローバル化が大きく進行しもたらされる変化によって、生活や経営環境が大きく左右されています。
■国内外における世界経済情勢
近年の新型コロナウイルスの感染拡大による情勢変革は、それまでに蓄積された課題が顕在化し、社会に広がっている状況です。各国間の対立、格差社会問題などは、長期的に醸成されてきました。
2~30年前と比べ、国内外には検討すべき複数の課題が重なっています。国同士の対立関係、インフレ経済、環境破壊問題など、現在の情勢が短期的に改善する見通しは立っていません。中小企業を取り巻く、外部経済環境の不確実性が高まっています。
■国内における経済課題と検討
少子高齢化、地域経済や産業の衰退、人手不足や後継者不足は、従来から存在する課題の延長線上にあります。輸入依存体質の定着化も日本経済の抱える大きな課題です。「日本における穀物輸入額と輸入量との関係」を見ると、日本の穀物輸入量は減少傾向にある中で、輸入額は上昇傾向にあり、インフレ経済を色濃く表しています。

中国や東南アジア各国が同じように穀物を輸入し出しているため、買い負けが起きている状況も推測できます。このような状況が続くようであれば、今までの食生活を営むことができなくなる危険性が見てとれます。
世界情勢に関わる課題は、主要国の対立の激化、所得格差の拡大と社会的分断、戦争とテロの頻発等、全てが情勢を悪化させる要素です。気候変動と自然災害の増加も、対立を生む状況にあります。すでに、カカオ豆やオリーブオイル、オレンジやコーヒーなど、世界的な農産物の不作が起こっています。
■主要国間による対立と戦争
ロシアによるウクライナ侵攻のように、戦争が始まる発端には経済的要因が絡んでいます。先進国の国民国家同士の全面戦争は、第二次世界大戦後初めてのことです。侵攻をきっかけに、ウクライナは各国より武器の供与を受けています。ヨーロッパにおける軍備の増強が起こったことで、武器市場の拡大が促されました。よって、日米欧では防衛費のGDP2パーセントへの押し上げが一気に高まりました。

日本でも、それまでおおよそ5兆円前後(GDP1パーセント)だった防衛費が、現在8兆円を超えています。海上保安庁の年間予算は2500億円から3000億円のため、このままでは10兆円以上(GDP2パーセント)が防衛費に投入されることになります。まさに、平和が脅かされる事態の長期化が進行しています。
■デフレ経済からインフレ経済へ
そんな中、アメリカ経済・政治全体が、国内経済に向けて偏った政策を取るようになっています。この国内偏重ともいえる姿勢は、対外的な関与を弱めてしまうため、多極的な経済が形成されてしまう懸念があります。アメリカ第二次トランプ政権は、私たちにとっても相当な影響力を与えるのではないかと思います。トランプ関税の拡大、不法移民の抑制、「アメリカ・ファースト」の急進、米中対立の深化が考えられます。
現在、アメリカ経済のインフレ率は3パーセント以下に抑えられており、決して悪くはない状況です。今後、過剰消費、財政悪化が進むのではないかと思います。すでに選挙公約において、7兆7500億ドルの財政拡大を発表しています。仮に、日本がアメリカの国債を購入すると、対米貿易収支黒字分を国内消費に回すことができなくなるため、日本の消費は低迷します。
現在、アメリカ全土で賃金が上昇しています。2024年4月時点で、アメリカの平均時給は、日本円で5145円(1ドル=150円換算)です。海外における急激なインフレは、グローバル化した日本経済にも連動して作用します。輸入増、働き方改革で、物資不足と人手不足が深刻化し、国内外ともに労働力の供給が需要を満たしていません。賃金が継続的に上昇すれば、輸入品の価格も上昇し、日本国内の物価上昇も長期化します。価格転嫁を進めていく必要があります。
■地域の中小企業としてできること

国内外経済が転換期を迎える今、変化に気づき、柔軟に対応していく必要があります。
地域の中小企業として、以下4点の取り組みが重要です。
1.地域内の付加価値を高め、地域内経済循環を促進させる。
2.転換期にある国内外経済の変化を見極める。
3.地域づくり、産業振興に関わり、外部経済環境の改善を進める。
4.中小企業振興基本条例制定運動への参加などを通じて政策に関わる。
中小企業家同友会の活動へ積極的に参加することも、経営者同士の交流を深め、成長する有効な機会です。今一度、社会を見つめ直し、地域経済や産業政策を作り出す取り組みを始める時代が来ています。