幸子の部屋「社員の幸せが私の幸せ」(株)勝矢和裁 副社長 東 栞衣 氏
- 開催日時:
- 2025/01/20(月)
- 報告者:
- (株)勝矢和裁 副社長 東 栞衣
- 文責者:
- ひとつ麦 吉原 幸子
ゲストの方にお着物を着せてインタビューする「幸子の部屋」。
今回のゲストは(株)勝矢和裁 副社長 東 栞衣(広島西支部・西地区会長)さんです。

事業継承は、事業者にとって往々にして課題となることが多い中、社員の幸せにみずからの幸せを感じ、日本の「和装」にとっての幸せな未来まで形づくろうとしている東さん。
ひと針ひと針、等間隔にまっすぐ縫ってゆく和裁そのもののような東さん。意外と長い海外生活を含め、その来し方行く末をお聞きしました。着物事業者同士ならではのスペシャル対談をお楽しみください!
【本日のお召し物】
東:これまで数々のお着物に袖を通してこられた東さんには、アンティークの襦袢を身に着けて頂きました。襦袢は襟のついた下着で、着物を身につければ見えなくなります。しかし昔の人は、見えないところこそ美しくお洒落なものとし、自分だけの楽しみとしていました。この襦袢も、友禅と刺繍が施されており、着物として表に見せても遜色ないデザインです。せっかくですので、少し昔の刺繡半襟を合わせ、明治時代風に、襟を大きく出し、襟合わせも鋭角に長めに取りました。

お着物は水色の小紋で、全体に椿繋ぎが染められています。帯は切嵌(きりばめ)風に織り出した名古屋帯を合わせました。
吉原:オレンジのろうけつ染めの小紋です。流水に紅葉の柄の着物に、少し古い時代の紫の絞りの名古屋帯を合わせました。
二人とも、古いものと新しいものを組み合わせたコーディネートとなっています。
吉原:早速ですが、今のお仕事を始められたきっかけについてお聞かせください。
東:19歳の時、父に癌が見つかり、その1ヵ月後に亡くなりました。当時短大に通っておりましたが、母から頼まれ、卒業後、20歳で勝矢和裁に就職しました。
吉原:それは大変でしたね。
東:就職して2年で1級和裁士を取得して、中国へ行きました。
吉原:え!中国ですか?!
東:中国にある他社の縫製工場へ手伝いに行くことになったんです。手縫いの工員が100名いる大きな工場でした。中国語を学ぶために大学へも留学し、午前中は大学、午後からは縫製工場で仕事、夜は自宅で中国語の勉強という毎日が1年ほど続きました。
吉原:それはかなりハードな毎日でしたね。
東: 当時は若かったので、大変とは思わなかったです。毎日が楽しかったですね。
吉原:とてもバイタリティがあったんですね。
東:中国に来て、1年経ったところで、その会社がベトナムへ工場を出店することになったため、私もついていきました。
吉原:今度はベトナムですか!
東: あちらの方って、朝から晩までみんなめちゃくちゃ働くんですよ。同じように働いたら、熱を出してしまいました(笑)。
吉原:熱を出すほどの仕事量って…。それは相当なものですね。

東:1~2年いて、25歳の時、日本に戻り、勝矢和裁でまた働くようになりました。
吉原:その頃は、どんなお仕事を担当されたのでしょうか?
東:海外業務担当でした。中国工場とのやり取りや、検品を行っていました。
吉原:元の職場に戻って、すぐになじめましたか?
東:顔なじみの方が多かったので、すぐになじめました。「おかえりなさい」と迎えてもらった感じで働きやすかったです。
吉原:それは何よりでした。ご結婚はいつ頃だったのでしょうか?
東:2000年でしたから、帰国の2年後ですね。高校時代の友人だった今の主人と再会して、結婚することになりました。
吉原:素敵なご縁!お仕事にも、ますます身が入りますね!
東:それが結婚の3か月後に主人の海外転勤が決まっちゃって。私もニュージーランドへ行きました。
吉原:それは思わぬ方向転換!
東:7年をニュージーランドで過ごし、上の子が小学校へ上がるタイミングで帰国しました。そしてパートとして、勝矢和裁で働き始めました。
吉原:7年は長いですよね。戻られた時のお気持ちはいかがでしたか?
東:特にどうこうというのはなかったです。社内の顔ぶれも変わっていたので1から始めていきました。
吉原:私は目の前の状況をあるがままに受け入れていける東さんがすごいと思います。
東:元々勝矢和裁は吉島にあって、羽衣町に移っていました。私が戻った1年後に、観音に移転したんです。2年目からフルタイムで海外担当として働くようになりました。
吉原:これまでの経験が生かされますね!
東:帰国から3年目に主人が勝矢和裁に入社。その3年後に主人が社長になりました。

吉原:新たな時代の幕開けですね!現在はどんなお仕事をなさってますか?
東:現在は、海外業務と国内業務の統括を行っています。それぞれ別に担当者がおりますが、全体を見るのが私の仕事です。
吉原:お話を伺っていると、迷うことなく一つの方向へ向けて進んでおられるように感じます。その情熱はどこから生まれるのでしょうか?
東:ニュージーランドにいた時「仕事がないのはつまらない」と思っていました。だから今、仕事が楽しいんだと思います。
吉原:どういうことでしょうか?
東:仕事は自分を成長させてくれます。知らなかったことを知り、できなかったことができるようになる。新たな出会いがあり、社員の成長があり、お客様が自社の仕事を喜んでくださる。そのすべてが、私にとってとても楽しくやりがいを感じることなんです。
だから仕事が楽しいんだと思います。
吉原:東さんは、人と共に成長し、喜び合うことに幸せを感じる方なんですね。
東:そうですね。社員の幸せが、私の幸せです。
吉原:勝矢和裁で働く社員の方は本当に幸せですね。

吉原:これからのビジョンについても、伺わせてください。
東:今、力を入れているのは「どこでも着物美人」という二部式の着物です。ご自宅のタンスの中のお着物を、5分で着られるようにツーピースに仕立て直します。2025年1月末にECサイトを立ち上げます。
吉原:5分で着られるのはすごいです!どんな方への販売を考えておられますか?
東:女性社長に着用頂きたいです。本物の素材やしつらえにこだわる方。訪問着の着用機会が多く、きちんとした場でのマナーを求められる方。和のお稽古事をされている40~50代の女性をターゲットに考えています。
吉原:確かに、着物の着用機会が多い方にとって、手早く着られることは重要ですね。
東:2020年のコロナを契機に、社内でたくさんの試行錯誤を行いました。その中で誕生した商品です。着物を着てでかけたいけれど、着付けが出来なくてあきらめる方がたくさんおられます。「どこでも着物美人」なら、海外でも簡単に着用出来ます。現在、特許も出願中です。
吉原:ビジネスシーンにもっと着物を着用してほしいというのは私も願っておりました。とても強力なアイテムになりそうです。
東:今後は販路を開拓し、10年後には海外需要も取り込んでいきたいと考えています。日本人も、海外の方も、簡単に着物を着用できる。そんな未来をめざしていきたいと思います。
吉原:元々のお着物の縫製はどうされるのでしょうか?
東:もちろん続けます。この二部式着物の販売が伸びることで、本来の着物への関心も高まり、縫製の需要も増えると考えています。二部式着物の販売が伸びることが、社員の幸せとなるんです。
吉原:日本における着物の着用率向上は、私も以前から考えておりましたが、東さんは、世界の着物の着用率を上げることを考えておられるんですね。驚きました。若い時から世界での着物の縫製に携わってこられた分、広い視点で着物の未来を見つめておられます。何かの折には、是非ご協力させてください。
今日は「和裁」の可能性を世界へ問う、大きなビジョンを伺わせて頂きました。私自身、着物に携わる者として、ワクワクしながら聞かせて頂きました。本当にありがとうございました。
今回は、「社員の幸せが私の幸せ」(株)勝矢和裁の副社長・東栞衣さん(広島西支部・西地区会長)にお話を伺いました。
次はあなたをご訪問するかもしれません。
是非お着物で、事業の来し方行く末をお聞かせください。
それではどうぞ、ごきげんよう。