尾道支部 新春講演会「未来を変える会社・地域づくり~ビジョンを掲げ、今こそ実践者へ!~」
- 開催日時:
- 2025/01/17(金)
- 会場:
- グリーンヒルホテル尾道
- 人数:
- 68名
- 報告者:
- (株)ヴィ・クルー 代表取締役 佐藤 全 氏(宮城同友会)
- 文責者:
- 事務局 井谷
当社は「人と車の絆を大切にし地球を救う企業」という理念のもと、自動車の修理・製造、新技術の開発に取り組んできました。もともと父の会社の一部門で、東北地方の厳しい気候に対応するため、車体整備と製造を手がけてきました。当初は事故車両の修理が主な収益源で、「事故が増えるほど収益が上がる」ことに疑問を抱きました。そこで、自ら価値を生み出せる仕事を模索し、バス製造・開発に特化する道を選びました。
■「走れば走るほど地球を守る車」の構想

未来を予測するのは難しいですが、「現状の対極をめざす」ことで新たなビジョンを描けます。例えば、「休みが少ない」「給料が安い」という課題があるなら、その逆をめざす。
バス業界は化石燃料に依存し、環境負荷が高いです。日本の車は高品質ながら使用年数が短く、資源の無駄も多い。この状況を変えるため、「走れば走るほど地球を守る車」を作るというビジョンを掲げました。大きな目標を設定することで、具体的な課題が明確になりました。
■震災を乗り越えメーカーへ
2011年の東日本大震災で観光がストップし、バスの仕事が消失。社員の雇用を守りながら、幹部と今後の方向性を話し合いました。その中で「災害時に役立つバス」として、お風呂付きバスや移動図書館バスのアイデアが生まれました。
私はバスメーカーをめざすと宣言しながら実現できていないことを社員に指摘され、決意がかたまりました。全国でバス改造を進めた結果、前年を上回る売上と利益を達成し、車両製造への第一歩を踏み出しました。
■コロナ禍の直撃と意識改革
2020年のコロナ禍で観光需要が急減し、バス業界は大打撃を受けました。収益基盤が崩れ、仕事がなくなる危機に直面しました。さらに、私が長期不在の間、社員の受け身姿勢が強まり、新たな挑戦や業務改善が進まない状況でした。
そこで、まず社員の意識改革に着手しました。売上減少や会社存続の危機を率直に伝え、課題を「自分ごと」として共有しました。「注文が減る会社」から「注文が途切れない会社」へ、「受け身」から「自ら考えて行動する姿勢」へ転換。バス製造における自分の役割を理解し、責任感を醸成する機会をつくりました。
■どんな人でも育つ環境づくり
当社は30年間、新卒採用に力を入れてきました。創業当初は業界の評価が低く、職場環境も劣悪でしたが、採用と育成を続けた結果、定着率が向上し、職場の雰囲気も改善。かつては熟練職人に頼っていた技術も、今では若手社員が担えるまでに成長しました。
課題は採用した社員が辞めない環境づくりです。退職を「個人の問題」とせず、会社の改善点を考え続けています。現在、自動車業界の人気低下により、地元の自動車大学校を卒業しても多くの若者が1年で辞める状況です。そこで当社では「どんな人でも育つ環境づくり」をテーマに教育を行っています。
■地域課題は経営課題
少子高齢化や人口減少といった地域課題は、企業経営に直結します。
2019年に地方創生が始まり、白石市では兼業農家の6次産業化をめざしました。その一環で食品加工工場やレストラン、研究所を設立し、多くの人が新たな事業に挑戦できる環境を整えました。その結果、白石市のふるさと納税額は近隣自治体の3倍に達しました。また、震災で源泉が枯れ閉館した温泉プールを林業の6次産業化と組み合わせ、バイオマス活用施設として再生を検討しています。この取り組みのため、新たな会社や団体を設立し、地域課題の解決を進めていく予定です。
■希望は対極にある
あらためて対局を考えることで、難しい状況でも希望が見えてくると感じます。重要なのは現状認識であり、これを誤ると適切な判断ができません。また、自社事業のバランスも考える必要があります。特化すれば突破力はありますが、依存度が高くなるとリスクも伴います。さらに、人材不足の時代だからこそ、誰もが成長できる職場づくりが必要です。
これからの経営課題でもある地域の課題に立ち向かえるのは同友会だけです。一社の努力だけで地域が良くなるわけではなく、皆で知恵を出し合い、行政とも連携することが重要です。全国的にこの取り組みが広がれば、「同友会のおかげで地域が良くなった」と言われる日が来るかもしれません。
【会社概要/報告者紹介】
設立 :2006年10月3日
資本金 :2,400万円
年商 :2億6,700万円
従業員数:37名
事業内容:主に「車体整備」「車体製造」「メーカー」