県総会第3分科会「企業づくりは地域づくりと一体で取り組む~農業を始めてわかった、地域とのつながりの大切さ~」
- 開催日時:
- 2025/05/22(木)
- 会場:
- リーガロイヤルホテル広島
- 人数:
- 90名
- 報告者:
- 新谷・農園 代表 新谷 慎一 氏
- 文責者:
- 事務局 橋本
■農業未経験からの転身

わが社は白木町で、ほうれんそう・小松菜・サラダ水菜・春菊などを野球場約1面分のハウスで栽培しています。従業員は6名、2000年に創業しました。
私は高校を卒業後、建設会社に就職しましたが、体を壊したため、会社を退社して療養生活に入りました。その時に「広島活力農業経営者育成事業」の第1期生の募集を知り、応募しました。建設会社在職中に造園施工管理技士の資格をとっており、植物のことなら少しはわかる、というのが理由の一つでした。
育成事業は2年間のカリキュラム。1年目は基礎研修で、2年目は実地研修。1a(アール=100㎡)のハウス6棟を管理し、栽培から出荷までを行います。土地の方に挨拶をするところからスタート、行政も初めての取り組みで手探り状態で、作業手順も道具もない状況でした。
■就農~見ず知らずの地域へ
実地研修前に白木町井原に家族ともども移住し、22aのハウスで就農のスタートを切りました。
一軒屋をお借りした大家さんに挨拶すると、「あんたぁ、どこの出身や」「音戸です」「ほうか、ウチの娘が音戸に嫁いだんじゃ。代わりにお前が来た。子どもだと思ってかわいがってやる」といったやり取りから始まり、本当にずいぶんかわいがってくれました。地域の方も受け入れてくれました。
もっと地域に溶け込むために、試行錯誤が始まります。自治会の役員になったり、体協の役員も引き受けました。一生懸命取り組むのですが、空回りしました。それを察した地域の方から、「関係性は薄くてもいいから、もっと広く関わってみたら?」と言われ、消防団にも入りました。そうすると、だんだん地域の方の情報が入るようになりました。食育体験などにも取り組み、農業そのものへの理解も広がっていきました。
■どん底からの復活
農業を事業化しようと、規模拡大に取り組みます。働く方と労働協約を結び、役割分担で効率を高めようとしました。外国人の雇い入れも視野に入れました。この時にお世話になったのが、社労士の瀬川さんです。同友会にもお誘いを受け、2010年に入会しました。

事業意欲に燃え、栽培面積は108aまで増えていましたが、2018年7月、西日本豪雨災害に見舞われます。ハウスは8割が水没し、作物は全滅しました。必死に復旧に取り組み、秋口には種付けができるまで回復し、売上はなんとか3~4割減にとどめました。とはいえ、復旧費用の工面や、地元の方の嫌がらせもあって、ついには気力も失いかけていました。
■農業の未来を見据えながら
少し周囲を見渡すと、地域の農業には課題が山積みです。一つは地域の耕地の維持発展が見込めないこと、もう一つは営農の担い手が減っていることです。育成事業で後輩は育っていますが、高齢化で稲作農家は減り続けています。耕地はいったん荒れると復旧がむつかしいのです。また温暖化によって、種の産地が打撃を受けており、危機的状況です。
こうした中、27年前に受け入れてくれたこの地域に農業で恩返しをしたい、という思いが膨らんできました。稲作に挑戦し、地元のコメ作りを支えたいと思います。
食は人間の最も大切なものです。だからこそ地域から食を支えたい。広島サミットに食材を提供したご縁で、広島市のふるさと納税返礼品に採用されました。さらに事業拡大をしていきたいと思います。理念に掲げた「選ばれる食材を目指して お客様満足の商品を」を追求していきます。