同友ひろしま/2023年/9月/News

「寄り添いの経営~感動のオンリーワン企業を目指して」東広島支部30周年記念行事

講師:徳武産業(株) 代表取締役会長  十河 孝男 氏(香川同友会)

我が社は、香川県さぬき市に本社を置く、高齢者用ケアシューズ「あゆみ」(以下、「あゆみシューズ」)のメーカーです。介護シューズでは国内シェアは数量ベースで約55%、日本一です。
徳武産業㈱は、私の妻の両親が1957年に地元の手袋業者の下請けとしてスタートしました。私自身は高校卒業後、地元の銀行に就職し、6年勤務の後、伯父の経営する会社に入社。先代の急死を機に、1984年に徳武産業㈱に入社、同時に37歳で社長に就任します。

■下請けへの「死刑宣告」

入社当時は学童用シューズメーカ大手の縫製下請けをメインにやっていました。15年の取引があり、売上の割合も高く忙しくやっていました。ところが、その取引先から「工場を海外に建設し、何年間後には発注はゼロになるだろう」と告げられました。我が社にとっては、死刑宣告に等しいものでした。辛くて厳しい道になることは分かっていましたが、下請けからの脱却を図ることを決断し、社内で宣言しました。  
そこからは、それまでのご縁と蓄積してきた技術を頼りに、旅行用スリッパ、ルームシューズ、ファッションポーチ市場を開拓、OEM(他社ブランド製品製造)ビジネスを展開していくことにしました。苦労の末、大手通販会社に我が社の商品が採用され、カタログにも掲載されるようになりました。喜びも束の間、担当者が変わればその感性も変わります。せっかく作った製品を「こんなもの売れない」と目の前で投げつけられたこともありました。一緒に行った企画担当者が、帰り道でぼろぼろと悔し涙を流す姿は、今でも覚えています。  

■潜在的ニーズの発見    

OEMビジネスの厳しさに歯を食いしばりながら次のビジネスを必死で探していた時でした。老人施設の園長を務める友人がやってきて「お年寄り向けの靴を作ってくれないか」と頼まれました。聞けば、「入居者がよく転倒してしまう。下手をすると大怪我をして寝たきりになりかねない。原因を調べたら床ではなく履物だった」と言うのです。  入居者の履物は、スリッパ、学童用シューズ、サンダルがほとんどで、東京などの大都市に行って探しても、「お年寄り向けの靴はない」のでした。OEMビジネス脱却の機会ととらえ、お年寄り向け靴の製造に挑戦することにしました。  
当時、専務であった妻と2人で、香川県下にある老人施設を訪問し、何が問題でなぜ転倒するのか、どんな不具合があるのかを調べてみました。二年間、500人の声をまとめると「軽量」「明るい色」「かかとしっかり」「転倒しない」「安価」の5点に集約されました。  
知り合いにお願いして、神戸のベテランの先生の技術指導を仰ぎながら、試作に試作を重ねました。ようやく製品化して、あるおばあちゃんに履いてもらおうとしました。  
しかし、おばあちゃんは「せっかくだけど履けないの」と言われました。なぜなら、片方の足が腫れてむくんでいます。左右で1センチ以上の差があったのです。左右サイズ違いで履ける靴は想定外でした。しかも、実際は経済的な事情で、大きい方の足のサイズの靴を買い、サイズ合わせのために、靴下の重ね履き、つま先に詰め物をするなど、サイズを調整していたのです。そして、それも転倒の原因になっていたのです。  
私たちは「お年寄りの歩行を助けたい」という一心で老人施設に通い続け、お年寄りの足を観察し、歩き方を調査しました。すると、病気で麻痺が残った方は片方を引きずって歩くので、片方の靴だけが極端に傷んでいました。底がすり減ったり、靴の周囲がボロボロに擦り切れているのに、健常な足の靴の方はきれいなままだということに気づきました。それを見て、私は片方を半値で売ることを決めました。左右サイズ違いで靴を買いたいという人はいましたが、片方のみを購入したいという人は誰一人いませんでした。まさに、私たちは潜在的ニーズを発見したのです。こうして、1995年に業界初、片方のみ、左右サイズ違い販売の「あゆみシューズ」は誕生しました。  

■「損得」ではなく「善悪」で判断    

ちょうどその頃、地元の弁理士に商標・特許・実用新案の手続きで相談に乗ってもらっていました。この時、「この販売方法は日本中の靴メーカーのどこもやってないので、ビジネスモデルで特許を取ったらどうか」とアドバイスを受けました。私は一瞬悩みましたが、「この事業が成長し同業他社が参入する際、うちが特許で押さえていたら、他社がそれを活用できない。そうすると利用者であるお年寄りの方が不便になる」と判断して、特許は申請しませんでした。  
現在、この業界では大手含めて15社が競合しています。大手は、品番にもよりますが、片方のみ、左右サイズ違いで靴を販売しています。このように靴業界で非常識であったものが、介護シューズ業界では常識化しています。私は特許の取得を勧められた際、損得ではなく「善悪」で判断したことに誇りを感じています。  

■奇跡を起こしたピンクの靴    

16年前ですが、こんなことがありました。関東地方にある老人施設から「あなたの会社は歩けない人に靴を売るのか」という激しいクレームの電話がありました。社員と共に、その施設にすぐに飛んでいきました。施設に入所されている車イスに乗った90歳ぐらいのおばあさんが、ピンクの靴を持っていることが分かりました。その方は、もう3年も歩いていないとのことでした。そこで、おばあさんに聞いてみると「同じ施設に、ピンクの靴を履いて歩いている人がいたのよ。そして、その姿を見ていると、靴が私に話しかけてきたの。『私を履いて。そして一緒に歩こう』と。それで、私も歩けるかもと思ってピンクの靴を買ったのです」。この話を聞いて、施設の方もやっと事情を理解してくれたのでした。  
それから半年後、先の施設の方から「おばあさんが歩き始めた」という電話がありました。私は社員と共に、ただちに駆けつけました。おばさんは満面の笑みを浮かべて「あなたの作った靴のおかげで歩けるようになったのよ。自分の足で行きたいところへ行けるなんて夢みたい」と。その時、涙が頬を伝いました。この仕事をして本当に良かったと、心から思えた瞬間でした。  

■最も大切なのは社員力    

私は友人に誘われ、34年前に同友会に入会しました。同時に経営指針書部会に入り、経営計画の立て方を必死に学びました。この時のお手本が、福岡の「やずや」創業者、矢頭宣男社長でした。我が社の経営の礎を築いてくれたのは「経営指針書」です。  
会社設立の意義、目的、考え方、方向性を示す経営理念は、特に重要です。徳武産業の経営理念は「1.超高齢社会に商品とサービスを通して社会に貢献します。1.全社員の物心両面の幸せを追求します。1.全国、世界の高齢者、障害者の心に響く感動を提供し続けるオンリーワン企業を目指します」です。  
会社は、社員の物心両面の幸せを実現するとありますが、給与・ボーナス・福利厚生、社員教育を通して、働きがい、生きがいを見出して、社員が人間的成長を実感するということです。経営者はそのことを常に最重要テーマとして意識して考え、真剣に行動する必要があります。売上を最大にし、経費を最小にして、社員の3倍働き、公私のけじめを社員が驚くぐらいつける覚悟が必要です。そして、社員に対しては、甘やかすのではなく、むしろ厳しいくらいがちょうど良いと思っています。何より、会社の力は、決算書にある財務諸表で示される内容よりも、帳簿外にある社員力、お客様からの信頼、期待、地域の人たちからの応援にあると考えているからです。特に社員力は最も大切なものです。  
お客様に、社員に、地域に、とことん寄り添った結果、おかげさまで、介護シューズ市場でナンバーワンのシェアをいただくようになりました。これからも、時流に合った経営に変化させ、世の中になくてはならない感動のオンリーワン企業を目指してまいりたいと思っております。  
最後に、今日の話の中から少しでも役に立ったことがございましたら、心より嬉しく思います。

(記:事務局 木下)

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