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第6分科会 人を生かす経営の真髄を教えてくれた二人の社員 ~社員を幸せにする経営者の覚悟~

Exif_JPEG_PICTURE報告者:真和建装㈱ 取締役会長  杉浦 昭男 氏(愛知)

 私は、塗装や防水工事などを行う会社を経営し、三九名の社員がいます。
 小さい頃から劣等感を感じながら育ってきました。学校でも兄や姉と比較され、一時期は家庭内暴力に走ったこともありました。
 そんな時に恩人から「人間はみんな生まれながら同じ能力を持っているが、育つ環境によってどう出るか変わってくる。お前にも素晴らしい潜在能力がある。頑張ればいつかお前が夢見ている人生が待っている。堂々と胸を張って歩け」と言われました。自分みたいな能力のない人間でも、一生懸命頑張れば幸せになれるのだと思った私は、自分の潜在能力を試すチャンスだと思い、起業を決意しました。
 今年で創業五〇年になりますが、商売がうまく行かず、人生で二度目の劣等感に悩まされていた頃のことです。私は障害を持った二人と出会いました。
 一人はテレビ番組で特集されていた青年です。私は社員旅行の宴会が終わり、真っ暗な部屋に戻ってテレビを点けました。すると「ここにも人間が一匹生きているぞー」と聞こえてきました。少しずつ鮮明になってくる画面を見ると、両手両足のない青年が叫んでいるのです。余命いくばくもない彼は絵を描くことでこの世に生まれた証を残したいと、口に筆をくわえ、何時間もぶっ通しで絵を描き続けていました。
 もう一人は知的障害がある遠縁の男の子です。彼が小学校一年生のとき、曾祖母が亡くなりました。彼は曾祖母に向かって、「空は青い。鳥も鳴いている。花も咲いている。こんなにすばらしい世の中なのに、死んじゃいかん」と一生懸命話しかけていました。
 私はこの二人と出会い、もう一度頑張ってみようと一念発起しました。

●F君の奇跡

 自社には障害を持った二人の社員がいます。自閉症のF君は、生まれてから一言もしゃべったことがありませんでした。ところが入社数ヶ月後、突然しゃべったのです。彼に四年半ぶりに会った学校の先生は、「F君が話すなんて奇跡だ」と言いました。
 自社の社員は最初から彼に対して先入観がなく、休憩時間なると彼に気軽に話しかけていました。彼は社員たちと楽しく過ごすことで、この会社になじみたいと思い、自分から話す勇気を持ったのでしょう。そして人と話すことの楽しさを知ったのです。
 入社半年が過ぎ、彼に今の思いを聞くと「この会社に入ってよかったと思えるような自分になりたい」と書かれたレポートが返ってきました。今まで彼の周りにいた大人は、一言も発しない彼のことを心のどこかで諦めていたのでしょう。彼はそんな闇をくぐり抜けてきたのです。
 しかし、私は障害があるからと言って特別扱いはしていません。彼が会社に慣れてきたころ、髪を伸ばしっぱなしにしていました。見た目だけでなく、安全上もよくありません。彼と髪を切ってくることを約束しましたが、一向にその気配がありません。障害があろうとなかろうと、約束は守らないといけません。私はタイミングを見計らって、彼をきつく叱りました。彼は飛び上がるほど驚いていましたが、翌日、わざと私の前を通り、短くなった髪をうれしそうに見せてきました。障害者も健常者と同じように認めてもらいたいと思っているのだと、彼に気づかされました。

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●入社二五年目のS君

 もう一人の社員が知的障害のあるS君です。彼は特別支援学校を卒業し、今年で入社二五年目になります。
 社員旅行でディズニーランドに行ったときのことです。S君は宿泊先で「このホテルは社員教育が行き届いているね。僕たちのような子にも親切にしてくれる」と言うのです。私はこの言葉を聞いて、これまで彼が周りにどれだけ偏見の目で見られてきたのか、心の内が見えた気がしました。彼の発言をきっかけに、障害のある子が偏見に満ちた目で見られる、こんな世界があってはいけないと思うようになりました。
 実は最近、S君の父親に打ち明けられたことがあります。父親は幼少期に生命の危機に遭ったS君を抱き、医師に「命だけは助けてほしい」と懇願したそうです。多くの人の助けがあって無事に命は助かりましたが、医師の予想通り、彼には知的障害が残りました。それから現在に至るまで、S君は温かく素晴らしい家族のもと、のびのびと育てられてきました。ところがS君も四〇代になり、高齢になった父親は「あの時、この子を先に逝かせておけばよかった」と言うのです。自分たちも年を取り、息子を残して亡くなることを考えると、夜も眠れないそうなのです。私たちには量り知ることもできない親の切実な思いでした。

●人間尊重とは

 同友会は人間尊重の経営を基盤にしている団体です。故・赤石中同協相談役は、障害者は生まれながらに障害というレッテルを貼られてきた。彼らは幸せになる権利を一〇〇%行使できるだろうか、と話していました。もちろん、障害の度合いにもよりますが、障害者の中には、自分がどれだけ活躍していても、健常者と同じようなにできないというジレンマを持っている人もいます。
 特に知的障害者の場合、健常者と異なり、自分が思った通りの結果が出ないことが多々あります。この問題をどうしていけばいいのでしょうか。答えは簡単です。私たち健常者が、彼らの足りない部分を補っていけばいいのです。よく知的障害を持った人は、特性でコツコツと仕事をするという言葉を聞きますが、それは健常者の勝手な言い分です。彼らは認めてもらおうと一生懸命に頑張っているのです。一生懸命な姿は健常者も障害者も変わりはないと思っています。

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●共育~育ちたいと思う心~

 同友会では、よく共育という言葉を使っています。労働者と資本家の対立が激しかった時代に、同友会の先輩は社員とは争うのではなく、社員を採用した以上は幸せにするべきだと気付いたのです。私はこの覚悟こそ、「共に育つ」だと考えています。
 共に育つとは、俺も一生懸命やるから、お前も共に育ってくれ、という意味ではありません。「共に生きていく」「この人間を幸せにするのは、経営者である自分しかいない」「どんなことがあろうとも、彼らの幸せを願う」。これが本当の共に育つ考えだと思います。
 同友会でも時々、社員と一緒にセミナーに参加した経営者が普段、自分が言っても伝わらなかったのに、他社の経営者が同じことを言ったら社員が理解してくれた、と喜んでいる姿を見ます。これは本来の社員教育でしょうか。私は本当の社員教育とは、人にゆだねるものではなく、経営者が自社の社員に覚悟と姿勢を見せ、この社長と共に生きていくと思える社員が出てくることだと考えています。
 真和建装㈱の経営理念は「共に育つ」です。人が育つときはどんなときか。それは、経営者と社員がそれぞれ育ちたいと思う心を持った時です。経営者は、社員が育ちたいと思う心を持つためにどうすべきかを考える役割があると思います。

●運動として障害者問題を考える

 私が会社で飼っている鯉を見て、なぜ大きくならないのか疑問に思っていると、社員に鯉は池(器)に合わせて成長するから、鯉を大きくしたければ、器を大きくしないといけないと教わりました。これは会社と同じです。だからこそ、経営者が同友会で学び、行動することが必要なのです。
 どんな人にも潜在能力があるという話をしましたが、私には社員の潜在能力を見極める力はありません。ただ、障害にかかわらず、潜在能力を引き上げるのは経営者の役割だと思っています。
 同友会では五〇年も前から障害者問題をどうするか、運動として考えてきました。障害者問題に対して、経営者が上辺で話しているだけでは解決しません。愛知同友会では、一社が一人の障害者に関わる運動を進めています。
 もちろん、中小企業が何人もの障害者を雇用できるとは思っていません。障害者問題に関わるということは、雇用だけでなく、様々な形の応援があります。経営者が障害者に寄り添ってあげることができれば、彼らが「生まれてきてよかった。生きていて楽しい」と思えるのではないでしょうか。同友会の会員企業一社一社が障害者一人ずつと関わっていけは、障害者問題が同友会運動として広まっていくのだと考えています。

広島県中小企業家同友会

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