こだわりの仕事道具~「ダイヤモンドホイール~切れ味を支える道具の物語」
- 報告者:
- (株)山崎精研 取締役 山崎 茂則 氏
- 文責者:
- ひとつ麦 吉原 幸子
(株)山崎精研 取締役 山崎 茂則 氏
木工の現場では「刃物の切れ味」がすべてを決めると言っても過言ではありません。スパッと木を切れるかどうかで、仕上がりの美しさも仕事の効率も変わってきます。
そんな大切な刃物を陰で支えるのが(株)山崎精研が担っている「再研磨」という仕事です。摩耗してしまった刃物を研ぎ直し、再び現場で活躍できるようによみがえらせる。その中心にあるのが、今回ご紹介する「ダイヤモンドホイール」という道具です。
ダイヤモンドホイールは、金属や陶器、または樹脂でできた円盤の周囲にダイヤモンド粒子を混ぜ込んだ、ディスク状の砥石のこと。一般的な砥石では太刀打ちできない「超硬合金」といった硬い刃物でもしっかり研ぐことができます。
このダイヤモンドホイールには非常に多くの種類があり、それぞれの性質を表す複数の単位があります。


使用しているダイヤモンド(天然と合成のものがあります)の粒の細かさを表すのが「粒度」。砥石としての硬軟の指標となる「ボンド」。このボンドが硬ければ砥石として長持ちするものの、切れ味は鈍いものとなります。逆に柔らかいものはスパッと切味が良くなる分、減りは早くなります。更に、ダイヤモンドの多少を表す「集中度(密度)」があります。
職人さんによって、体格、力加減がみな違うので「自分に適したダイヤモンドホイール」は異なります。野球選手が自分に合うバットを選ぶように、それぞれが「これぞ」という砥石を選んで作業します。またメーカーに改良をお願いし、オリジナルのホイールを作ってもらうことよくあるそうです。作業効率と仕上がりの精度を求めて、職人さんの道具へのこだわりはとどまることがないそうです。
道具選びはある程度経験を積んでから、となります。なぜなら、刃先の世界はミクロン単位で目には見えないからです。「なんとなく切れが悪い」と感じた時、原因は砥石の硬さなのか、材料の違いなのか…。そうした判断にはどうしても経験が欠かせません。
だからこそ、多くの職人さんが国の技能検定「研磨技能士」の資格に挑戦しておられます。自分の技術を目に見える形で高めよう、全国の同業者と新たな技術について情報交換しようと情熱を傾けておられます。
実は少し前まで、(株)山崎精研が「全国機械用刃物研磨工業協同組合」の本部事務局を務めておられ、全国の同業者の方々を牽引してこられました。

仕事の中で一番大事にしているのは「お客さんの仕事を止めない」こと。もし切れない刃物を渡してしまったら、大工さんや工務店の作業が丸ごとストップしてしまいます。その責任感が、職人の仕事にいつも緊張感を与えています。もちろん、時には満を持して納品した刃物が「切れ味が悪かった」と戻ってくることもあります。原因がはっきり分からないまま再度研ぎ直して「今度は切れた」となることも。そこがこの仕事の難しさでもあるそうです。

顧客の顔ぶれも時代とともに変わってきました。昔は家具職人が中心でしたが、輸入家具や住宅事情の変化でその数は減少。今では大手の建材メーカーやハウスメーカーがメインです。だからこそ、会社も常に柔軟に変わりながら技術を磨いてきました。一方で、「家具作りや研磨の技術が失われてしまうのではないか」という不安もあり、同業者同士で技術を守る活動も続けられています。
職人にとってダイヤモンドホイールは、ただの消耗品ではありません。日々の経験や工夫が詰まった、まさに「相棒」です。そのこだわりがあるからこそ、多様な要望にも応え続けられる。
工場には25台ほどの研磨機が並び、6人の職人が毎日多種多様な刃物と向き合っています。経験40年の大ベテランから、まだ5年未満の若手までが、日々実直に刃物と向き合い、顧客の仕事を支える姿に大いに感銘を覚えました。