「『知らなかった』では済まされない!広島労働局担当官が語る、中小企業が今すぐ見直すべき労務管理の急所」県求人社員共育委員会
- 開催日時:
- 2025/08/28(木)
- 会場:
- 同友会広島事務所、Zoom
- 人数:
- 60名
- 報告者:
- 講師:広島労働局 雇用環境・均等室 三時 範裕 氏
- 文責者:
- 事務局 児玉
県求人社員共育委員会勉強会&人を生かす経営実践塾オープン例会
■はじめに
「ウチは従業員と家族同然だから大丈夫」。その思い込みが、ある日突然、高額な未払い賃金請求や訴訟リスクに繋がります。
本日は、労働局の立場から日々多くのご相談を受ける中で、特に中小企業で見落としがちな労務管理の「急所」に絞ってお話しします。自社に潜むリスクはないか、確認しながらお聞きください。
■すべてのトラブルの温床。 「言った言わない」をなくす会社の憲法

労務トラブルの根源は、決まって「言った言わない」です。これを防ぐ唯一の方法が、採用時に書面で渡す「労働条件通知書」。口約束では、紛争時に会社の正当性を証明できません。法律で書面の交付が義務付けられている以上、それを怠った事実だけで会社は不利になります。
考えてみてください。毎月20万円の契約を、契約書なしで交わすでしょうか。労働契約も同じです。そして、会社の憲法となるのが「就業規則」。懲戒処分や解雇といった重大な判断も、この就業規則に明確な根拠がなければ「社長の個人的な判断」と見なされ、無効とされるリスクが極めて高い。
法律上の作成義務がない10人未満の会社でも、ルールを明文化しておくことが、いざという時に会社自身を守る最大の防御策になるのです。
■最も訴訟になりやすい「お金」の問題点
最も深刻化しやすいのが「お金」の問題です。「固定残業代を払っているから大丈夫」という誤解は非常に危険です。定めた時間を1分でも超えれば、超過分の支払い義務が生じます。未払い請求は、退職後に数年分をまとめて弁護士から通知が来ることが多く、その額は会社の存続を揺るがしかねません。

また、良かれと思ってやった「天引き」も原則違法です。例えば、社員が会社の備品を壊したからといって、給料から一方的に修理代を天引きできません。まずは給料を全額支払い、その上で損害について話し合うのが正しい手順です。
■知らぬ間に法律違反? 「休み」と「辞めさせ方」の落とし穴
「休み」と「辞めさせ方」にもご注意ください。年5日の有給休暇取得は会社の義務であり、「本人が休みたがらない」という言い訳は通用しません。休ませなかった場合の責任は会社が負います。これはパートやアルバイトも対象です。
そして、最も慎重になるべきが「解雇」。日本の法律では解雇のハードルは極めて高く、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がなければ、不当解雇として訴訟に発展します。感情的に「クビだ!」と言う前に、その法的な重さを認識してください。
■忍び寄る賃金問題と、会社が今すぐやるべきこと

最後に、急上昇する最低賃金の問題です。気づけば、新卒の給料が先輩社員を上回る「給与の逆転現象」が起きていませんか。
初任給の引き上げは、既存社員を含めた賃金体系全体で見直さなければ、かえって人材流出を招きます。法律は会社を守るルールでもあります。
まずは自社の就業規則を読み返し、実態と法律に合っているかを確認することから始めてください。