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2026.01.06

経営フォーラム2025 基調講演「社会起業家として生きる。~19歳でホームレス問題を解決しようと決意した~」

開催日時:
2025/10/07(火)
会場:
リーガロイヤルホテル広島
人数:
527名
報告者:
講師:認定NPO法人Homedoor 理事長 川口 加奈 氏
文責者:
事務局 橋詰

■ホームレス問題との出会い

私がホームレス問題と出会ったきっかけは、14歳のとき、炊き出しのボランティアに参加したことでした。
大阪には日本で一番ホームレスの人が多いと言われている、“あいりん地区”と呼ばれる地区があります。現在は再開発が進んでいますが、私が中学校への通学中、電車で通り過ぎていたころは、テント(※ホームレスの住居)が眼下に広がっていました。母は「絶対に駅から降りたらあかん」と念押ししていましたが、好奇心旺盛な私は素直に言うことを聞きません。炊き出しのボランティアを募集しているのを知り、参加しに行きました。
おにぎりを握る間、窓の外を見れば、炊き出しが始まる3時間前にも関わらず長蛇の列ができていました。

私は「もっと勉強すればよかったんじゃないの」と、湧き出た疑問を元ホームレスのスタッフに尋ねました。するとその方は、「勉強机なんてなかった。働きなさいと言われて、中学を出たら出稼ぎにでた」と答えました。私は衝撃を受けました。私の家には勉強机があり、それが当然のことだと思っていたからです。
おむすびを一つずつ渡していると、あるホームレスの人が服とは言えない、布切れのようなものを着ていることに気が付きました。私はふと、自分が着ているコートを渡したいと思ったのですが、その後ろの人も、そのまた後ろの人も寒そうにしていました。この人だけに、たった一枚のコートを渡しても解決しない。何もできないという無力感を抱いた私は、炊き出しが終わってからもホームレス問題について調べるようになりました。

■問題を伝える側になる

調べてみると、当時、大阪市内では年間213人のホームレスの人が亡くなっていることを知りました。「ホームレス状態に、誰がなりたくてなるのだろうか」「中学生の自分でもできることはないか」と、考えました。
丁度その頃、ホームレス襲撃事件の加害少年が「自己責任の奴らを片付けた」と供述していたことが話題になっていました。私もかつて、自己責任だと思っていました。ですが今、そうは思えないのは、問題を知ったからこそ。「知ったからには知ったなりの責任が生じる」と考え、問題を伝える側になることを決意しました。
炊き出しや夜回り、自校・他校の生徒を巻き込んでのフィールドワークといった活動を続けているうちに、高校2年生の時にボランティア親善大使として海外研修に参加しました。ですが、企業と連携し継続的な活動を行う海外と、私の行ってきたボランティアとではレベルが違います。自分の発表が終わったとき、ある大使に「あなたは社会に良さそうなことをしたいだけなの?それとも社会を変えたいの?」と、尋ねられました。
私の活動前後で、地区の景色は何も変わっていませんでした。

■「もう一回、働きたい」が叶わない社会を変えたい

夜回りの際、とあるホームレスのおっちゃんが、「仕事がしたい」と話してくれました。私は威勢よく、「仕事探してみる」と、答えました。仕事なんていっぱいあると思っていたからです。
調べてみると、家もお金もない、体を悪くしているおっちゃんに仕事は中々ありません。見つからないまま次の夜回りに参加した時、そのおっちゃんが亡くなったことを知ります。周囲に迷惑が掛からないように身分を隠して生活をしていたために、身元は不明でした。
「もう一回働きたい」という願いも叶わず、最後は無縁仏になる。そんな社会構造を変えたいと思いました。
その後、私はホームレス問題を研究していた大学に入学。ホームレスの人への行政支援を調べると、住所不定だと使える制度が十分でないことがわかりました。
ホームレス状態の脱却には、「負のトライアングル」と呼ばれる、仕事・貯蓄・住まいの3つの課題があります。家を借りるには初期費用が必要。家がなければ外食・外泊になるため出費が多く貯金は難しい。貯金には働くことが必要。仕事をするには住まいが必要ですが、家を借りるにも家が必要。住民票がない場合は戸籍謄本が必要。戸籍謄本取得には手間も時間もお金も必要で、受け取る住所も必要。…と、ホームレス状態から抜け出すには高い壁があります。どんな人でも登れるステップをつくることが必要だと考えました。

■シェアサイクHUBchariの開始

在学中にHomedoorを立ち上げた私は、路上脱出のステップの中でも、まずは仕事を作ろうと考えました。おっちゃんたちに得意なことを聞いて回ったところ、廃品回収等で自転車を使う人が多いためか、7割近くの人が自転車修理が得意と答えました。移動には自転車がないと不便…という大阪の課題を解決する「シェアサイクル」を事業にすることを決めました。学生だったため営業に苦慮しましたが、少しずつ拠点も広がり、現在では660拠点に広がっています。万博会場でも設置いただきました。

■路上生活から脱出する、ステップを提供する

路上から脱出したいと思ったら、脱出できる選択肢がある。その選択肢を提供することが、私たちの活動です。具体的には、6つのステップを提供しています。1)届ける(アウトリーチ)。2)選択肢を広げる。3)“暮らし”を支える。4)“働く”を支える。5)再出発に寄り添う。6)伝える。
しんどい時にこそ、安心してベッドで眠り、美味しいご飯がある…そんな、最高のおもてなしがしたいという思いで、7年前から、無料で滞在できる、個室の緊急一時宿泊所(アンドセンター)を設置しました。全て寄付で賄っています。アンドセンターの横でカフェを設置し、相談者・宿泊者に提供しています。ここで仕事をすることで、履歴書のブランクを埋めることもできるようになりました。

■相談者の選択肢であるために

近年の相談者の半分は10~30代になり、若年層・再相談者が増えてきています。若年困窮者の8割以上が虐待を受けてきた、児童養護施設で育った等、生育環境に課題を抱えていた、生育格差があることがわかってきました。そんな相談者が、腰を据えて落ち着いて将来を考えることができ、心理的なケアを提供しながら、就労支援も実施しようと長期滞在型宿泊施設「アンドベース」を2年前に開設しました。アンドベースでは、支援に時間のかかる母子・父子、障害者への支援も実施しています。
よく、活動のモチベーションについて尋ねられるのですが、私自身はモチベーションに頼らないようにしています。例えば相談者が新しい道に進むことができた…ということを私自身のモチベーションにしてしまうと、相談者に選択を強要してしまうのではないかと考えています。あくまで相談者の選択肢となるよう。淡々と、続けることを大切にしています。

ですが、活動を続ける理由はあります。知ったからには、知ったなりの責任があるからです。ぜひ知った側として、何ができるか、考えていただきたいです。何か一歩を踏み出していただきたいと考えています。
誰もが何度でもやり直せる社会の実現は、挑戦と失敗が許容される社会につながると、信じています。

【会社概要】認定NPO法人Homedoor

設立:2010年4月
運営スタッフ:22名(内フルタイム13名)
活動内容:ホームレスの人をはじめとする生活困窮者への就労支援、生活支援ホームレス化予防事業、ホームレス問題に関する啓蒙活動
URL:https://www.homedoor.org