【人を生かす経営実践塾】オープン勉強会「経営者と社員、地域の人たちと共に~自分たち一人ひとりが地域をつくる主体者となる~」
- 開催日時:
- 2026/01/26(月)
- 会場:
- 同友会広島事務所、Zoom
- 人数:
- 80名
- 報告者:
- (有)福祉ネットワークさくら 代表取締役 横山 由紀子 氏(埼玉同友会)
- 文責者:
- 事務局 児玉
「人を生かす経営」の真髄とは何か。その答えは、机上の理論ではなく、泥臭い実践の中にこそ宿ります。私たちが創る「経営指針書」は、いかなる逆境においても社員と地域を守り抜く、揺るぎない覚悟の証(あかし)です。
埼玉同友会・横山由紀子氏の報告は、まさにその真理を証明する実践であり、「採用難」や「組織の硬直化」に悩む私たちへの処方箋でもあります。1月26日に開催された「人を生かす経営実践塾」での横山氏の熱い報告を以下、掲載します。
■事業承継「なぜ弟ではなく、私が選ばれたのか」

私は今年で60歳、「丙午(ひのえうま)」の生まれです。「男の財産を食い尽くす」なんて迷信もありますが、まさにその通りの気性の荒さで生きてきました。
元々は家庭科の教員を経て、「夢の専業主婦」になったはずでした。しかし、母が創業した会社を手伝うことになり、14年前に2代目としてバトンを受け取ることになったのです。
当時、社内には非常に優秀な弟(専務)がいました。彼はドラッカーを学び、論理的で、経営戦略も完璧でした。誰もが彼が継ぐものだと思っていました。しかし、母は私を指名したのです。母の理由はこうでした。「弟は一人で正解を出し、『こうするぞ』と決めてしまう。でも由紀子は、『どうしよう、困ったな』と弱音を吐いて、社員と一緒に悩み、考えられる人だから」。
■上野駅のホームで感じた「死への誘惑」
しかし、そこからが地獄の始まりでした。弟が会社を去ると、彼を慕っていた幹部たちが次々と退職。「お前が追い出したんだ」という冷ややかな視線の中、社員にお給料を手渡しても、無視してひったくるように持って行かれる日々。「誰から給料もらってると思ってるんだ!」と叫びたい気持ちを必死に飲み込みました。
当時、神奈川の自宅から埼玉まで片道2時間の通勤をしていました。途中の上野駅で人身事故のアナウンスを聞くたび、「ああ、ここで飛び込んだら楽になれるのかな」「よく飛び込めるな、その勇気が羨ましい」と本気で思うほど、精神は崩壊寸前でした。
社内も最悪です。「利益を出している部署」が「赤字の部署」を吊るし上げる月次会議。「お前ら給料泥棒か!」と罵声が飛ぶ、いじめのような会議を、情けないことに私自身も一緒になって行っていました。人は辞め、お客様は減り、組織はまさに崩壊前夜でした。
■障害者雇用が教えてくれた「働く意味」と「混ざる仕掛け」
転機は、母に言われて嫌々入会した同友会の「障害者問題全国交流会(障全交)」でした。そこで先輩経営者たちが語っていたのは、利益や効率の話ではありませんでした。「命の重さ」「人間の尊厳」、そして「働くこと=生きること(学習権)」という根源的な問いでした。
「横山さん、あなたの会社には、社員が人間として成長する仕組みはあるか?それがなければ、会社として存在する意味がない。すぐ辞めちまえ」頭をガツンと殴られたような衝撃でした。
その翌週、私はハローワークに走り、「障害者を雇用したい」と告げました。当然、社内は大反発です。「なんで私たちが面倒見なきゃいけないの?」「同じ給料なんておかしい」。しかし、この反発こそがチャンスでした。「じゃあ、働くって何だろう?」「共に生きるってどういうこと?」と、社員と膝を突き合わせて対話するきっかけになったからです。
障害のあるスタッフが入社したことで、社内の空気が劇的に変わりました。「あの子ができるなら私もやる」という競争ではなく、「彼には何ができるか? 私たちはどう支え合えるか?」という視点。
もちろん精神論だけではありません。「防災の日に1,000円支給して他部署の人と防災グッズを交換する」「部署を超えた飲み会には会社が補助金を出す」といった、意図的に人が「混ざる」仕掛けも徹底しました。
結果として、子育て中のママや高齢者も、「お互い様」で働きやすい風土が醸成されていったのです。最も弱かった組織が、最も強靭なチームへと生まれ変わった瞬間でした。
■ビジョンは「スタバを超える!」
そして今、会社の目の前に「さんかくカフェ」というお店をオープンしました。これは10年前、どん底の時期に社員と描いたビジョンが原点です。「地域の人も、障害者も、高齢者も、誰もがごちゃまぜになれる場所を作りたい」。
周囲からは「空き店舗でやればいい」と言われましたが、私は「いや、スタバを超えるんだ!」と譲らず、新築の自社ビルで実現させました。

■「参加」ではなく「参画」する場所

なぜ「さんかく」なのか。それは、単にお客さんとして来る「参加」ではなく、みんなが役割を持って関わる「参画(エンゲージメント)」をしてほしいからです。ここでは、障害のあるスタッフがピザ生地をこね、デイサービスの高齢者が梅シロップを仕込み、地域のママさんがマルシェを企画します。
スターバックスに行っても、80歳のおばあちゃんと障害のある子供、地域のビジネスマンが同じテーブルで笑い合っている風景はそうそうないでしょう。
でも、うちにはその日常がある。だから私は胸を張って「スタバを超えた!」と言っています。
このカフェは、補助金とクラウドファンディング、そして何より「地域の巻き込み」で作りました。
私が飲み会や地域の集まりに顔を出しまくり、「こういう場所を作りたいの!」と訴え続けたら、たくさんの人が仲間になってくれました。今ではカフェが地域のハブとなり、本業である福祉の相談も自然と舞い込むようになっています。
■「良い会社、良い地域とは」成長の「過程」を喜び合えるか
私にとって「良い会社」とは、「社員が成長し続けられる会社」です。先日、新入社員を連れて近所の居酒屋に行きました。すると、居合わせた常連客のおじさんが「新入社員か!頑張れよ!」と言って、彼らにご馳走してくれたのです。新入社員たちは「大人ってかっこいい!」「この地域、最高ですね!」と目を輝かせていました。
今の若者は、単なる条件や待遇ではなく、こうした「地域とのつながり」や「働きがい」を求めています。
会社の中だけでなく、「地域の中での体験」を通して人間として豊かになっていく。それをプロデュースするのが企業の役割であり、それが結果として採用や定着にもつながります。

当社の理念に「成長する喜びを共有します」という言葉があります。これは、「成長した結果」を喜ぶのではありません。うまくいかない時も、もがいている時も、「成長しようとしている過程(プロセス)」そのものを、みんなで喜び合おうという意味です。
■やらぬ後悔より、やる後悔を
私の座右の銘は「やらぬ後悔より、やる後悔」。社員に「挑戦しろ、成長しろ」と言うなら、まず社長である私が誰よりも挑戦し、失敗し、そして素直に謝って、また前に進む。その泥臭い背中を見せ続けることこそが、私の仕事だと思っています。
今日の話が、広島の皆さんの「地域との共生」や「人を生かす経営」の小さな灯となれば幸いです。
〈会社概要〉
(有)福祉ネットワークさくら
事業内容:高齢者・障害者/児の福祉サービス事業・飲食業
創業:1990年12月 設立:1999年5月(27期)
所在地:埼玉県さいたま市浦和区
職員数:64名(正社員17名/パート47名 うち自転車徒歩通勤60名(地域雇用)) 平均年齢53歳(18歳~78歳) 障害者4名・高齢者・母子家庭多
資本金:300万円 売上:2億2千万円
営業範囲:半径2Km
利用者数460名:高齢者・障害者/児(親子2代・親子・職員親・元職員・両隣)
https://www.net-sakura.jp/