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2026.01.05

経営フォーラム2025 第6分科会「誰もが最期まで“ごきげんな”社会をつくる~高齢化先進県だからこそ生み出された、しまねの仕事づくり~」

開催日時:
2025/10/07(火)
会場:
リーガロイヤルホテル広島
人数:
74名
報告者:
モルツウェル(株) 代表取締役  野津 積 氏(島根同友会代表理事)
文責者:
事務局 大塚

1.当社について

当社は、島根県松江市を拠点に、介護施設向け完全調理済み食材の製造・販売や在宅高齢者向け配食サービスなどを展開しています。社員145名、売上は24億です。3年後に50億円、7年後に100億円の企業をめざしています。製造だけでなく、実際に給食現場を運営して、現場のデータに基づいた商品・システムを磨き込んでいることが大きな特徴です。その他に買い物弱者支援、シェア物流などのソーシャルビジネスにも取り組み、地域生活の「食」と「暮らし」を支える事業を多面的に展開しています。
 経営理念は「社員の幸福を追求し、日本全国津々浦々の健やかで安らかな地域生活に貢献する」です。
 ビジョンとして「誰もが最後までごきげんに暮らせる社会をつくる」を掲げ、その実現の1つに、既存の配食のあり方「食事の内容・時間・環境の3つの自由」を軸に変革していくことを使命としています。

2.原体験から感じた使命感とは

島根県は、かつて35年間連続で高齢化率全国1位を記録した「高齢化先進県」です。人口は1995年の93万人から現在63万人へと減少し、2060年には34万人まで落ち込むと予測されています。一方で有効求人倍率は常に上位にあり、人材の確保が難しい、典型的な「人手不足の地方県」です。
島根は戦後70年、人口流失が続き、「島根という場所がいつか無くなるのではないか」。このような危機感にせまられています。
29歳の時に、ほっかほっか亭のフランチャイズ店として創業し、お弁当の宅配事業を行いました。
地方でも、コンビニの進出や、スーパーのお惣菜コーナー拡大により、売り上げが減少していた時、在宅高齢者の配食サービス業界と出会い、安否確認付きの配食サービスを始めることにしました。365日1日2回、玄関口靴を脱いだ先にある冷蔵庫や枕元までお届けしています。なかには引きこもりがちで生きる意欲を失いかけた高齢者や、ゴミ屋敷化した住まい、誰にも知られない孤独死の現場にも向き合わざるを得ないこともあります。
日本の高度成長を支えた人たちが、最後は誰にも気づかれない暗い部屋の中で、生きる意欲を無くしている現実に、強い問題意識を抱きました。これが私の原体験となりました。最後くらいは「あゝいい人生だった」と言わせてみたい。「誰もが最期までごきげんな社会をつくる」をビジョンに掲げています。
もう一つの原体験が、東日本大震災の発災翌日に食材義援活動に東北入り、津波で剥ぎ取られた陸前高田市街を見た時、「ふるさとは永遠ではない」ことに気づかされました。

物流が止まり、食料や燃料など日々欠かせないものが届かない恐怖を強く感じ、「物流が止まれば暮らしも地域も一瞬で失われる」ことを痛感しました。物流の衰退とふるさとの衰退は、同義であるとも感じました。
 島根半島の小さな漁村にお弁当を待っている一人暮らしの高齢者が30人ほどいます。片道1時間半かけて600円の料金では大赤字です。10年前からこのエリアには当社しか配達していません。

私たちが、配達を止め、撤退を判断した瞬間、いとも簡単にここで暮らす高齢者のふるさとを奪うことができます。何故ならお弁当が必要な人は、自力での調理が困難な人が多いからです。お弁当をお届けすることで、そこで暮らす“高齢者の生活”と“ふるさと”を守っているのです。

3.社会課題・地域課題解決に向き合うこと

地域や現場の課題に対し、当社は「物流を止めない仕組みづくり」を軸に事業を組み立てました。
買い物弱者支援では、弁当配送車を「地域のライフライン」と位置づけ、宅配牛乳やクリーニング、宅配便の荷物も一緒に運ぶシェア物流に取り組んでいます。夕方以降は佐川急便と提携し、Amazon等の荷物を配送する共同物流にすることで、持続可能な配送体制を整えています。また、「物を届ける」だけでなく、声かけや体調の変化に気づく見守り機能も果たすようになりました。
さらに、アメリカ・ジップライン社やソフトバンク等と連携し、ドローンによる中山間地への配送を計画しています。ドローンでまとめて荷物を届け、着地点から先の“ラストワンマイル”を、地域の元気な高齢者が有償で担う仕組みです。これまで「届けてもらう側」だった高齢者が、「届ける側」として役割を持つことで、ちょっとした収入だけでなく、生きがいや地域とのつながりを感じられるようになることを期待しています。このように、最新技術と人の力を組み合わせることで、物流課題を解決しながら、地域に小さな仕事と役割を生み出し、「誰かの役に立つ」実感と収入を同時に生み出すことが可能になります。

4.多様な人材が活躍する仕事づくり

島根のような人材獲得が厳しい地域で事業を伸ばすには、「採用と育成」が生命線です。当社では、私自身の仕事の6~7割を採用活動に充ています。今後6年間で130人規模の増員を見据えています。 社員構成は、高齢者が3割、障害のある社員が全体の約11%、外国籍社員も在籍し、いわゆる“マイノリティ”と呼ばれる人材が4割を占めています。それでも生産性を高め、賃上げも実現しています。管理職の約4割5分が女性であり、誰もが働きやすく挑戦しやすい環境づくりを進めています。

介護施設の厨房では、完全調理済み食材と専用機器、デジタル技術を組み合わせることで、50床規模の施設でもワンオペで運営できる仕組みを構築しました。厨房人材不足の原因となっているのは個別対応が必要な複雑なトレイメイク作業です。このボトルネックを自社開発のシステムによってモニターに映し出される表示に従って作業するだけで、入社3日目の新人スタッフや、発達障害且つ境界知能の社員であっても、6か月前に入社したベテランスタッフと同等のスピードと正確性で作業することを可能にしました。

人に合わせて仕事を単純化するのではなく、仕事を工夫して誰もが力を発揮できるようにする環境づくりこそ経営者の役割です。
その他に、特別支援学校との交流や、チャットを活用した相談窓口、個々の成長を見える化する「成長シート」、改善提案に報奨を出す制度などを通じて、多様な社員が自信を持って働き続けられる土台づくりを行っています。こうした取り組みの積み重ねが、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」や「高年齢者活躍企業コンテスト」の受賞にもつながりました。

5.ふるさとを守り続けるために

働く社員が活躍する環境づくりは、もちろん大切なことです。しかし、変化の激しい時代、これを維持発展させていくためには、経営者が変化を恐れずリスクを取って一歩前に踏み出さなければなりません。
私たちは地域の高齢化と人口減少が最も早く進む島根だからこそ、物流・介護・雇用という現場の課題に真正面から向き合い、新しい仕事づくりに挑戦してきました。
 「すべては一人から始まる」。経営者が変われば組織が変わります。組織が変われば未来が変わります。地域課題から逃げず向き合い続け、企業を成長させることで、ふるさとを守りながら未来を描き続けることができるでしょう。

【会社概要】モルツウェル(株)

本 社:島根県松江市北陵町18番地1
設 立:1997年11月1日
資本金:1000万円
事業内容:高齢者施設向け調理済み食品の製造販売、システム開発、配食サービス事業
URL:https://morzwell.co.jp/