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2026.01.20

第7回県理事会 学習会(12/15開催)「中小企業を取り巻く情勢」

開催日時:
2025/12/15(月)
会場:
Zoom
人数:
52名
報告者:
講師:北海学園大学 経済学部 地域経済学科 教授 大貝 健二 氏
文責者:
事務局 中野

講師:北海学園大学 経済学部 地域経済学科 教授 大貝 健二 氏

中小企業と大企業の格差がコロナ禍以降かなり拡大しています。大企業は経常利益を大きく伸ばしている一方、中小企業はコロナ前とほぼ同水準にとどまっています。大企業は円安や物価高による原材料費・コスト上昇分をいち早く価格転嫁できていますが、中小企業では価格転嫁が容易ではないことがわかります。
経済産業省の調査結果を見ると、中小企業の価格転嫁は年々進んではいますが、100%価格転嫁ができている企業は4分の1にすぎず、1~3割程度しかできていない・全くできていない企業も相当数存在しており、中小企業の中でも価格転嫁ができている企業とできていない企業とで二極化が進んでいます。

中小企業の景況感が改善しない理由として、仕入単価の上昇分を販売単価の上昇分でカバーできていないことが考えられます。コロナ禍以降、仕入単価の上昇が一気に進み、高止まりして推移していく中で、販売単価が低水準で足踏みしており、仕入単価の上昇分を補いきれず企業の利益が圧縮され、結果として採算が合わないことや、景況感が上向かないと捉えています。
人手不足も深刻で、ほぼ全業種で基本的に人が足りていない状況です。大手企業は賃上げをしながら、採用を早期化し、いち早く新卒を確保する動きも出ています。そのため、中小企業が採用活動を始めるころには学生の就職先が決まっており、人が確保できない状況をつくっています。

2024年には倒産件数が1万件を超え、休廃業・解散は6万件を超えました。コロナ緊急融資の返済開始による倒産件数の増加、経営者が高齢化し事業承継が進まない中で、余力があるうちに会社を畳む動きも強くなっています。そのため、M&Aも増えていますが、東京の企業が地方の企業を吸収する動きが強く、地域に根差した中小企業という観点が損なわれています。
こうした状況は、安倍政権下で語られてきた、中小企業淘汰論が進んできているとも見えます。中小企業は、日本の企業数の99.7%を占めているにもかかわらず、中小企業政策の体をなしていないのではないかと思っています。

中小企業政策は中小企業庁が展開しているものの、経済産業省の外局であるために経済産業政策に拠るところが大きいと考えています。政策の基本的枠組みは1999年の中小企業基本法改正に基づいており、1963年制定の旧基本法とは性格が真逆のものになっています。63年基本法が「大企業と中小企業の格差是正」や「中小企業全体の底上げ」を目的としていたのに対し、99年基本法へ改正以降は、競争力の持てる中小企業を作っていく方向へと転換しました。そのため比較的体力があり成長可能な中小企業の中上位層を主なターゲットにした中小企業政策が展開されています。こうした施策に対応できない小規模事業者は政策の対象外となっていることが問題視される中で、中小企業憲章の制定運動などが広がり、2013年の中小企業基本法改正で「小規模企業」が明記され、地域社会に根ざした存在として位置づけられました。しかしその結果、「成長・競争力重視の中小企業政策」と「地域密着型の小規模企業政策」という二つの政策体系が並立することになり、本来一体で議論されるべき中小企業政策が分断される「ダブルスタンダード」状態が生まれました。

中小企業白書では、売上高の減少や人手不足といった中小企業問題として捉えなければいけない課題に対し、価格競争力の強化、賃上げに向けた投資、生産性向上など「自助努力」を強調する姿勢が目立ちます。本来、大企業と中小企業の格差をいかに是正していくかを問われていなければいけないことに対し、格差はあるものが前提として、企業の自助努力に委ねてよい問題なのか考える必要があると思います。
また、近年は中堅企業育成を重視する経済産業政策に中小企業政策が引きずられ、従来の中小企業支援は地域や商工会やよろず支援拠点などの地域支援機関に委ねられつつあります。しかし、地域ごとの人員・支援ノウハウにはバラつきがあり、そこに対しどう対応していくか政策的な視点から考えていかなければいけないと思います。

2025年6月までに、全国約758自治体で中小企業振興基本条例や小規模企業振興基本条例が制定されています。都道府県レベルでは、2022~23年頃までに47都道府県すべてで制定される状況になっています。広島県では、設備投資や企業誘致への助成を目的とする「政策条例」が今も多く残っている点が特徴的です。それに対し同友会運動では、どのような地域経済を構築していくか、中小企業者・自治体の責務と役割を明文化した「理念条例」の制定を進めてきました。
条例制定運動は、中小企業基本法の改正と連動していると捉えています。99年基本法に改正され、国主導から、地方公共団体は地域の実情に応じて主体的に施策を策定し、実施する責務が明確化されました。地域経済の衰退・疲弊している状況と相まって、条例を制定して地域経済を活性化していこうという流れから制定されたのが、2005年以降の条例になります。また、2013年に中小企業基本法が小規模企業活性化法に改正され、2015年以降に「中小企業・小規模企業振興条例」が激増しました。

1999年基本法改正後に制定された条例では、前文が設けられているものが半数を占めていました。しかし、2013年基本法以後、前文を置かず、「基本理念」という条項の中で地域経済の活性化が謳われるようになりました。
2015年以降に制定された条例の中では、商工団体・経済団体・中小企業団体の役割を明記する条例文が増えており、特に「商工会」と明記する条例が明らかに増えています。さらに、小規模企業者の役割として「商工会への加入に努めるものとする」と明記されている条例が増えています。
この背景には、「商工会および商工会議所による小規模事業者支援に関する法律」などが制定されていく中で、商工会や商工会議所が小規模企業を伴走型で支援していく体制になっていったことが考えられます。つまり、小規模企業への支援を政策的に行うために条例が位置づけられるようになっており、同友会が進めてきた条例制定運動でめざしてきた条例と、性格が異なってきていると捉えています。
商工会を通じた伴走型の支援を間違いと思っているわけではありませんが、どのような地域経済をつくるのか。そのために地域の中小企業がどのような役割を果たすのか。議論し方向性を定めていく必要があると考えています。

北海道帯広市の事例を共有します。十勝は日本最大の畑作地域で、麦・豆・イモ・ビートが主要作物ですが、原料供給地にとどまり、付加価値は道外で生まれていました。特に小麦は、地元加工や消費の発想がなく、ほぼ全量が道外へ出荷されていました。
地元のパン屋である満寿屋商店㈱(北海道同友会会員)は、1980年代頃から「十勝産小麦でパンをつくりたい」と模索を続けていました。当時の十勝産小麦は主に中力粉用になる品種しかありませんでした。しかし、その思いを知った地元小麦農家も「十勝産小麦のパンを食べたい」と思うようになり、パン用小麦の生産が徐々に広がっていきましたが、地域に製粉工場がないことが課題でした。 「地域がこうあったらいいな」という要望に対し、㈱山本忠信商店(北海道同友会会員)が製粉工場を建設し、域内での加工・販売が可能な体制を整え、十勝ブランドを高めていきました。そして、それらの取り組みを行政が条例を通じて後押しし、産業振興会議などを通じて連携しながら、十勝産小麦の魅力を高める施策を展開しています。行政は消費者・生産者・実需者をつなぐ窓口役として、小麦の認知度・魅力度を高めるイベントを実施し、現在では十勝産小麦が当たり前の状況ができてきました。
地元の事業者が行政を巻き込み、「地域の強みをどう生かすか」を議論できていることが十勝の強みだと思います。

条例は作って一朝一夕に意味があるわけではありません。継続的に細く長く繋げていくことで、段々と形になっていきます。企業として「地域がこうあったらいいな」を事業化し展開するとともに、地域の産学官で連携して地域の未来展望を議論し、問題意識を共有していく場をつくることに条例の意味があります。