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2025.07.31

2025年度第1回会員企業の経営課題と政策要望のアンケート調査

開催日時:
2025/07/01(火)~2025/07/22(火)
会場:
弊会グループウエアe.doyu
人数:
2086名の回答

概要<景況は踏みとどまるも、1年後の見通しは大幅な悪化見通し>
〜来襲する大嵐に「21世紀型中小企業づくり」で備えよう!〜

調査期間:2025年7月1日~22日
会員数:3000名(2025年7月1日現在) 回答数:2086名 回答率69.5%

はじめに

2025年7月20日に実施された参議院議員選挙は、政権与党が過半数を割り込むという結果となりました。また、トランプ関税がまさに始まろうとしており、政治・経済の先行きは混沌とした様相です。参議院議員選挙では、経済政策の柱として、与野党とも、国民の所得増を掲げ、給付金の支給や消費税減税、社会保険料の減額などを各党の公約として掲げました。同友会が長年にわたり要望してきた減税や社会保険料の減額などが、選挙期間中これほどまでに目や耳にしたのは初めてではないでしょうか?「2000社の中小企業の生の声」と内外に評価されつつあるこのアンケート調査は、その存在意義が大きく増してきていると実感させられています。

2000名の回答、70%近い回答率で、外部から心待ちされるまでになった広島同友会のアンケート活動は、全国の同友会からも注目を集めています。そのような中で、今回のアンケート調査でも、前回を上回る過去最高の回答数2086名、過去最高の回答率69.5%を達成しました。ご回答頂いた会員のみなさまには心よりお礼を申し上げると共に、最後まで粘り強く回答推進にご尽力いただいた役員・政策委員のみなさまには心より感謝いたします。
中小企業が健全に発展できる「よい経営環境づくり」のために、このアンケート結果を、「中小企業の切実な願い」として、行政や関係団体、金融機関、マスコミに伝えて参ります。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

(1)景況・経常利益は変わらずも、1年後の見通しはさらに3期連続の悪化

現在の経営状況を示す「業況判断DI」は「+6.0」。前回と同値となりました。足踏みというより踏みとどまっているという評価の方が正しいかもしれません。コロナ前の「DI値20」からすれば、現在は低空飛行が続き、好景況とはとてもいえない状況です。
 業種別では、製造「▲8.0(前回▲7.0)」と3期連続の悪化、建設は「+6.2(前回+4.6)」と若干の改善を見せるも、建設DIを引っ張ったのは設備工事+8.6、職別工事+10.4で、元請けとなる総合工事は+0.7と前回+5.1から▲4.4と水面まで急落しています。この状況では、今後、建設業全体の悪化が懸念されます。卸小売も「▲8.8(前回▲3.7)」と水面下で2期連続の悪化、サービスは「+16.2(前回+15.8)」と若干の好転ながらほぼ横ばい、その他は「+10.7(前回+7.0)」と4ポイントほど改善しました。

「経常利益DI」は、「+22.2」、前回(+21.7)からほぼ横ばいの状況です。わずかですがトントンが減少し、「赤字基調」が上昇したことは今後の動静に懸念を残す状況です。業種別で見ると、製造「+10.4(前回+7.6)」からやや改善、建設「+19.5(前回+22.8)」からやや悪化、卸小売「+16.0(前回+14.7)」とやや改善、サービス「+30.2(前回+29.6)とやや改善、その他も「+24.2(前回+21.7)」と改善しました、製造、建設の悪化を卸小売、サービス、その他で補いDI値の横ばいを維持しています。

「1年後の経営状況の見通しDI」は、「+17.0(前回21.4)」、4.4ポイント悪化、4期連続と悪化傾向が止まりません。業種別では、製造「+3.3(前回+9.7)」と6.4ポイント悪化、さらに建設「+8.7(前回+20.6)」と前回から11.9ポイント大幅悪化、卸小売「+1.4(前回+7.5)」と6.1ポイント悪化、サービス「+31.0(前回+30.4」とほぼ横ばい、その他「+21.8(前回+27.3)」と5.5ポイント悪化となりました。サービス業は横ばいを維持するも、他は全業種で大きく悪化しています。物価高を上回る賃上げは難しく、政治不信・トランプ関税や紛争の継続など、経済好転の見通しが立たず、もはや楽観的な見通しは持てない状況のようです。間近に迫る大嵐にどう備え、どう対応し乗り切るのか、危機感を持ち方針を立て計画を実施する必要に迫られています。

(2)経営上の問題点は「人件費の増大」が1位、「税・社会保険の負担増」が急伸!

賃上げ圧力を背景に「人件費の増大(42.8%、前回41.2%)」が3期連続の第1位となっています。賃上げをすればそれに伴って「社会保険料の負担増」となるために、今回「税・社会保険料の負担増(24.2%)」が、第3位へ急伸しています。人件費増分の価格転嫁が十分にできていないことから、人件費に加え社会保険料の負担増も、経営をさらに圧迫し始めているようです。

(3)物価上昇・賃上げの価格転嫁は一向に進まず

2022年1月の調査開始以来、物価、仕入れ価格の上昇は止まりません。当初は、円安による原材料費・エネルギー費の上昇でしたが、賃上げ分も含め進められる価格転嫁の影響も大きく原材料費の相乗的な上昇が今後も継続するとみられます。上げ幅は、1~5%の上昇が25.7%(前回24.7%)、6~10%の上昇が30.1%(前回30.3%)、11~20%の上昇が12.1%(前回16.9%)と大きな変化は見られません。仕入れ価格増に対する価格転嫁の状況は、まったくできていない29.5%(前回29.3%)、1~2割程度33.8%(前回33.2%)、すべて転嫁できている9.0%(前回7.5%)と大きな変化はありません。

賃上げは継続しています。上げた58.2%(前回61.0%)、これから上げる8.6%(前回7.8%)と、6割を超え賃上げ継続しています。上げ幅も1%~2%が25.3%(前回23.8%)、3%~5%が55.7%(前回55.2%)、6%~10%は15.1%(前回17.4%)と、物価や公的負担増を超えた賃上げは難しい現状です。賃上げに伴う価格転嫁も進んでいません。まったく転嫁できていない36.7%(前回38.5%)、1割~2割程度32.3%(前回33.5%)と7割近くは価格転嫁ができていません。防衛的にも賃上げを継続せざるを得ない状況ですが、価格転嫁が進まない状況の中で、社会保険料増の負担がさらに増しており、このままでは遠からず、賃上げ、さらには事業継続が難しくなる局面を迎えてしまう企業が出るのではないかと大きな懸念を抱かざるを得ません。

(4)「人材の確保・育成・定着」はもはや社会問題

経営課題が少し変化しています。「人材の確保・育成・定着56.3%(前回61.1%)」、「事業規模の維持・拡大44.7%(前回42.7%)」、「新規事業の展開33.9%(前回36.0%)」と順位は変わりませんが、人材は4.8%、新規事業は2.1%減り、事業の維持拡大は2.0%増えています。背景に賃上げと社会保険料増が負担となり、採用意欲が減り始めているではないか、本業重視が強まっているのではないか、と予測されます。
けれど現状は、人材確保の状況は、「不足気味49.3%(前回52.6%)」と深刻です。「仕事が増えて不足23.4%(前回24.4%)」と事業の継続・拡大の支障になっていることに変わりはありません。しかも不足しているのは「正社員38.6%(前回43.0%)」と少し減少してはいますが、人材確保は変わらぬ深刻な課題です。

(5)トランプ関税の影響は予測不能?

トランプ関税の影響について、悪い影響37.9%、予想が就かない37.9%、影響はなさそう22.7%、よい影響を受けそう1.4%となりました。
具体的影響や対応について伺ったところ、製造業を中心に、取引先の減産計画や設備投資の延期、購入予算の削減凍結など具体的な影響が出ています。製造業以外では、製造業の冷え込みが経済を失速させ、今後、間接的な影響が出ると多くの方が予測しており、悪化に対応した計画づくりを進めている方も出始めています。そのような中で、予測不能・打つ手なしなど、現状では対応策が立てられないとの声も多くありました。
いずれにせよ、景気減速は避けて通れないとすれば、具体的な対応策を検討すると共に、必要な支援が明確となれば声を上げていく必要があります。

(6)資金繰りDIはさらに悪化、痛みの増す財務内容

資金繰りDI+7.4(前回+11.5)と4ポイントあまり悪化、3期連続の悪化で、原材料高・賃上げ・転嫁ができない現状など、複合的な悪化要因に襲われ、資金繰りの悪化が広がっていると推測されます。日銀の政策金利は据え置かれましたが、今後の動向次第では、さらに悪化要因が加わる可能性があります。
「経営者保証に関するガイドライン」に沿って個人保証が免除された方は20.4% 354名(前回20.8% 365名)と足踏み状態となりました。4月に開催した広島銀行との勉強会では、「すべての融資について検討し、条件が整っていればすべて経営者保証を外しています。すでに外れていることを知らない経営者の方もいるかもしれません」と報告されました。まず、自社の融資条件を確認し、もし外れていないとすれば、外すための条件を整えていく必要があります。個人保証の免除については、金融機関の問題ではなく、企業側の問題となっており、学習会等が必要になっています。

(7)「税制」問題と「社会保険料」について声

税制について、混乱を防ぐために現状を維持、しっかり働ききちんと納付という声もありましたが、多くは、負担が重く経営を圧迫していると法人税も消費税も軽減を求める声が大半でした、消費税については、消費税廃止、インボイス制度廃止の声も少なくありません。過去最高の税収から国民への還付という話には怒りに近い指摘、大企業の優遇、特に利益を上げ内部留保が膨らむ大企業への課税強化をという声が多く見受けられました。
社会保険料については、その負担感は増すばかりで、納付が給与の3割程になっていること、企業が半額を納付している事実が、社員にも社会的にも伝わっていないこと、賃上げをすれば連動してその負担が増えること、結果、賃上げにブレーキが掛かってしまうこと、雇用の拡大に躊躇してしまうこと、資金繰りへの圧迫が高まっているなどの声がありました。
いずれにしても、必死で賃上げに取り組んでも、消費税、社会保険料の負担増で、結果として社員の手取りは増えない状況です。個人の所得を増やし、経済の好循環を産むことが賃上げの目的であれば、その目的にブレーキをかけるような政策ではなく、減税、負担減という追い風の政策が望まれます。

(8)政策要望から:中小企業憲章・中小企業振興基本条例に基づいた中小企業支援を

多くの声は、社会保険料の減免、消費税の減税・廃止、法人税の軽減、大企業優遇からの転換でした。
加えて、中小企業の人材確保難という継続する経営課題の解決と広島県が抱える若年層の県外流出問題は、選ばれる魅力ある企業づくりを進めるとともに、中小企業が働く場として選択肢となる教育をすすめるために、地域での企業と学校の連携の必要性とその支援の要望が上がられています。
また、様々な支援施策が展開されていますが、その情報にたどり付けていない課題が指摘されています。企業が必要とする支援情報に簡単にアクセスできる仕組みの必要性が指摘されています。

(まとめ)襲来する大嵐は、「21世紀型中小企業づくり」で跳ね返せ

「賃上げによる経済の好循環」は蜃気楼と消えるのでしょうか?1年後の景況予想DIの悪化、資金繰りDIの延伸的な悪化、社員は賃上げの実感を持てず、財務内容は傷み続ける、今回のアンケートそんな様相を見せています。この状況でトランプ台風に襲われれば、今後、非常に厳しい情勢となりそうです。ここ数年、「付加価値」と「価格転嫁」が言われてきましたが、外部要因で努力の積み重ねが吹き飛ばされてしまいかねません。
今年、労使見解が発表され50周年の節目の年です。その冒頭には「経営者はどのように情勢が変化しようとも経営を維持・発展させる責任がある」とありますが、まさに経営者の覚悟と実践が問われる状況です。この労使見解をもとに「バブル崩壊」という未曾有の経済危機を乗りきる具体的な取り組み方として1993年に提起されたのが「21世紀型中小企業づくり」です。

【21世紀型中小企業づくり】
1)自社の存在意義を改めて問いなおすとともに、社会的使命感に燃えて事業活動を行い、国民と地域社会からの信頼や期待に高い水準で応えられる企業。
2)社員の創意や自主性が十分に発揮できる社風と理念が確立され、労使が共に育ちあい、高まりあいの意欲に燃え、活力に満ちた豊かな人間集団としての企業。

「我が社は何のために存在するのか」「お客様の期待以上に応えるためには」、それらを社員の主体的な創意で具体化し、それに取り組むこと自体がやりがい、いきがいにつながる企業づくりを進め、バブル崩壊の経済危機を乗り越えてきました。現在、先の予測が難しい中で、改めてこの「21世紀型中小企業づくり」の真の意味を掴み、具体的な実践で乗り越えていきましょう。
そして、自助努力を基本にしながら、自助努力だけでは解決しがたい共通した経営課題は、このアンケート調査で明らかになっています。この調査結果を行政や金融機関・支援機関等に伝えるとともに、政策要望としてまとめ広島県等へ提出し、中小企業が健全に発展できる経営環境づくりの実現に取り組んで参りましょう。

詳細データは以下からDLください。